13年後のクレヨンしんちゃん

こんにちわ。

最近facebookで見つけたお話です。

 

とっても心打たれましたので、ご紹介します。まずは前編。

 

僕はシロ、しんちゃんのともだち。十三年前に拾われた、一匹の犬。

まっ白な僕は、ふわふわのわたあめみたいだと言われて。

おいしそうだから、抱きしめられた。

あの日から、ずっといっしょ。

「行ってきマスの寿司~~~~~~。」

あいかわらずの言葉といっしょに、しんちゃんは家から飛び出していった。

まっ黒な上着をつかんだまま、口に食パンをおしこんでいるところを見ると今日もちこくなんだろう。

どんなに大きな体になっても、声が低くなっても、朝に弱いのは昔から。

特に今年は、しんちゃんのお母さんいわく『ジュケンセイ』というやつだから、

さらにいそがしくなったらしい。

たしかに、ここのところのしんちゃんは、あんまり僕にかまってくれなくなった。

しかたのないことだとしても、なんだかちょっと、うん。

さみしいかもしれない。

せめてこっちを見てくれないかな、と言う気持ちと、がんばれという気持ち。

その二つがまぜこぜになって、とにかく少しでも何かしたくなって。

小さくほえてみようとしたけれど、出来なかった。

なんだかとても眠たい。

ちかごろ多くなったこの不思議な感覚、ゆっくりと力が抜けていくような。

あくびの出ないまどろみ。

閉じていく瞳の端っこに、しんちゃんの黄色いスニーカーが映って。

ああ今日もおはようを言い損ねたと、どこかで後悔した。

ぴたぴたとおでこを触られる感覚に、急に目が覚める。

いっぱいに浮かんだ顔に、おもわず引きぎみになった。

ひまわりちゃんだ。

「シロー。朝ご飯だよ。」

そう言いながらこちらをのぞき込んでくる顔は、しんちゃんに似ていて。

やっぱり兄妹なんだな、と思う。

「ほら、ご飯。」

ひまわりちゃんは、片手で僕のおでこをなでながら、もう片方の手でおわんを振ってみせる。

山盛りのドッグフード。まん丸な目のひまわりちゃん。

あんまり興味のない僕のごはん。困った顔のひまわりちゃん。

僕は、それをかわるがわる見ながら、迷ってしまう。

お腹は減っていない。

でも食べなければひまわりちゃんは、もっと困った顔をするだろう。

でも、お腹は減っていない。

ひまわりちゃんは、悲しそうな顔になって、僕の目の前にごはんを置いた。

そして、両手でわしわしと僕の顔をかきまわす。ちょっと苦しい。

「お腹減ったら、食べればいいよ。」

おしまいにむぎゅうっと抱きしめられてから、そう言われた。

ひまわりちゃんは立ち上がると、段々になったスカートをくるりと回して、

そばにあったカバンを持つ。

学校に行くんだ。

いってらっしゃいと言おうとしたけれど、やっぱり言う気になれなくて。

僕はぺたんとねころんだ。

へいの向こうにひまわりちゃんが消えていく。

顔の前に置かれたおちゃわんを、僕は鼻先ではじに寄せた。

お腹は、ぜんぜん空いていない。

ごはんを欲しいと思わなくなった。

おさんぽにも、あんまり興味はなくなった。

でも、なでてもらうのは、まだ好き。

抱きしめられるのも、好き。

『ジュケンセイ』っていうのが終わったら、しんちゃんは。

また僕をいっぱい、なでてくれるのかな。抱きしめてくれるのかな。

そうだといいんだけど。

目を開くと、もう辺りはうすむらさき色になっていて。

また、まばたきしているうちに一日が過ぎちゃったんだと思う。

ここのところ、ずっとそうだ。何だかもったいない。

辺りを見回して、鼻をひくひくさせる。しんちゃんの匂いはしない。

まだ、帰ってきてないんだ。

さっき寄せたはずのおちゃわんのごはんが、新しくなっている。お水も入れ替えられている。

のろのろと体を起こして、お水をなめた。冷たい。

この調子なら、ごはんも食べられるかと思って少しかじったけれど、ダメだった。

口に中に広がるおにくの味がキモチワルイ。思わず吐き出して、もう一度ねころがる。

夢のなかは、とてもしあわせな世界だった気がする。

僕はまた夢を見る。

しんちゃんと最後に話したのは、いつだっただろう。

僕はしんちゃんを追いかけている。

しんちゃんはいつものあかいシャツときいろいズボン。小さな手は僕と同じくらい。

シロ、おて

シロ、おまわり

シロ、わたあめ

『ねえしんちゃん。僕はしんちゃんが大好きだよ。』

『オラも、シロのこと、だいすきだぞ。シロはオラの、しんゆうだぞ!』

わたあめでいっぱいのせかいはいつもふわふわでいつもあったかで

いつまでもおいかけっこができる

いつまでも

また朝がきた。

でも、その日はいつもと違っていて。しんちゃんのお母さんが、僕を車に乗せてくれた。

しんちゃんのお母さんの顔は、気のせいか苦しそうだった。

車はまっ白なお家の前で止まって、僕は抱きしめられたまま下ろされる。

そして一回り大きなふくろの中につめられた。まっくらだ。どうしようか。

昔なら、びっくりしてあばれてしまったかもしれない。でも今は、そんな力も出ない。

とりあえず丸くなると、体がゆらゆらとゆれた。

それがしばらく続き、次にゆれが収まって、足もとがひんやりとしてくる。

いきなり辺りがまぶしくなった。

目をぱしぱしさせていると、変なツンとした匂いがする手につかまれ、持ち上げられる。

いっしゅんだけ体が宙に浮いて、すぐに冷たい台の上に下ろされた。

まっ白い服を着た人が、目の前に立っている。そばには、しんちゃんのお母さん。

二人が何かを話している。白い人が、僕の体をべたべた触る。

しんちゃんのお母さんが、泣いている。

どうして泣いているのか解らないけれど、なぐさめなくちゃ。

でも、体が動かない。またあの眠気がおそってくる。起きていなきゃいけないのに。

なんとか目を開けようとしたけれど、ひどく疲れていて。

閉じていく瞳を冷たい台に向ければ、そこに映るのはうすよごれた毛のかたまり。

なんて、みすぼらしくなってしまったんだろう。

ああそうか、僕がこんなになってしまったからなんだ。だからなんだ。

だからしんちゃんは、僕に見向きもしないんだ。

おいしそうじゃないから。

あまそうじゃないから。

僕はもう、わたあめにはなれない。

わたあめ。

ふわふわであまあまの、くものかたまり。

いちど地面に落ちたおかしは、もう食べられないから。

どんなにぽんぽんはたいても、やっぱりおいしそうには見えないよね。

だけど、君はいちど拾っててくれた。

だれかが落として、もういらないって言ったわたあめを。

だから、もういいんだ。

何かにびっくりして、僕はまた戻ってきた。

見なれた僕のお家。いつもの匂い。少しはだざむい、ゆうやけ空。

口の中がしょっぱい。

「なんで!!!!!!」

いきなり、辺りに大声が響いた。びりびりとふるえてしまうような、いっぱいの声。

重たい体をひきずって、回り込んで窓からお家の中をのぞきこむ。

しんちゃんのお父さんとお母さん、ひまわりちゃん。

そして、僕の大好きなしんちゃんも。

みんなみんな、泣いていた。

 

後編にに続く…

 

愛と感謝を込めて…

安希

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